「江戸糸あやつり人形」 2004年 雲林国際偶戯節に参加し

 私たち「江戸糸あやつり人形」は、いいだ人形劇フェスタ実行委員会の要請を受けて、飯田「今田人形座」の方々と共に台湾の雲林国際偶戯節に参加してきました。
 この公演は、昨年実施される予定だったものがSARS問題で1年延期され、今年実現されたものです。またこの催しは2年に1度開催されると、あとで文化局局長(以下、局長)から伺いました。

「江戸糸あやつり人形」演目
 かっぽれ・人形の解説・酔いどれ・人形の胴の解説・黒髪・獅子舞

「江戸糸あやつり人形」メンバー
 上條充・福田久美子



7月9日

■12:00 台北に到着 バスにて移動(早朝、飯田出発)

■15:00 雲林県政府文化局に到着(斗六市、雲林県政府所在地)

台湾各地から集まった5人の通訳ボランティアの女子大生に会う。(うち2人が私たちの担当になる。)まづバスの乗換えを求められる。(空港送迎用と違うそうだ。)この時点でまだ具体的な日程は知らされてなく、会場の下見も含めて打ち合わせを求めたが、通訳もよくわかっていないようだ。
局長が来て、パレードに参加するよう言われる。

■16:00 パレードの出発点 斗六市火車站前広場(駅前広場)に到着

既に衣裳に身を包み、それぞれの人形を手にした出演者が集まっている。広場では子供たちの遊戯、鼓笛など演じている。
ここで台湾の人形をいくつか見ることができた。(後述)
日本のチームは私服に手ぶら。その後パレードに移るがインパクトは弱い。太平老街まで歩いたところで下見可能と判り、列から離れ、文化局に戻る。文化庁下見の後、虎尾鎮公所・中山堂をバスの中から見る。(既に閉まっていた。)

■20:00 夕食後、文化局に戻る。オープニングセレモニーに参加

急遽プレゼンテーションとして2〜3分人形を遣うように言われる。劇団の紹介を中国語と英語でするというので、覚えたての簡単な自己紹介を自分でする。人形は「酔いどれ」。主だった所作をつなげ披露する。翌日とても印象深かったと台湾の人に声を掛けられる。

■22:00 宿舎に到着

1時まで通訳と「人形の解説」などの通訳について打ち合わせする。


7月10日

■08:00 北港朝天宮広場に到着



■10:00 開演

観客は300人ほど
快晴。朝から暑い。北港朝天宮は台湾で一番大きな神社と言われている。その正面前広場に舞台を組み、天井にテントを張っている。客席は炎天下。舞台下手側の建物の陰になっているところに、かなりの人が固まっている。始まる直前に、上手側に大きなパラソルが立てられ、その下にも人は集まったが、正面に人は少なく、ちょっと遣いづらい状態だった。



■13:30 虎尾鎮公所 中山堂に到着



■15:30 開演

観客は40人ほど
閑静な官庁街にある講堂。街に人影が無い。不安を感ずる。
開演5分前、客席数1000ほどあるところに5人しかいなく、このままならば舞台の上に客を上げて、間近に見てもらおうかと現場スタッフと相談する。しかし開演と同時に何人も入ってきて、舞台に上げる事はやめる。入場無料で会場の受付けも無く、観客の把握ができないとのことだった。
観客に台湾の人形劇関係者が多かったようで、公演後ちょっとした交流をする。

■18:30 歓迎パーティ

雲林県政府が開催。出演者全員が出席。
政府からのプレゼントとして、今台湾で最も人気のある人形劇の人形を戴く。お返しに何かプレゼントしなければならないと言われ、持っていた私たちの手拭いを渡す。事前に聞いてなく、またお返しもどれぐらいすれば良いのかも判らず、ちょっと困ってしまった。


7月11日

■08:30 文化局 円形広場に到着



■10:00 開演

観客は200人以上
円形広場の一端にテントが張ってあって、そこを舞台にする。前は炎天下。観客は広場外側の木陰のところに散在。舞台から遠い。目前にテレビカメラしかないと言う状況で始めたが、人がだんだんと前のほうに詰めだし、「黒髪」のときにもっとも多くなったのは、嬉しい事だった。

■12:30 文化局演講廳(庁)に移動

■14:00 開演

観客は350人以上
下見した際舞台が低く客席から見づらいのが判り、舞台を上げて欲しいと頼んだのだが、日本の平台と同じような台があって、舞台を上げる事ができた。
文化局内で公演するときは、必ず局の方の挨拶が開演前にあるようだ。そのときも観客はどんどん入って、通路という通路をぎっしりと埋め尽くしてしまった。小さな子供も多かったのだが、むずがって声をあげた子は二人ほど、最後まで熱心に見てくれた。
客席数は250、担当者は数えたわけではないが、と前置きした上で上記のように教えてくれた。






 総 括

 私達「江戸糸あやつり人形」が海外の人形劇フェスティバルに参加したのは今回が初めてだった。出発直前まで情報が入らず、現地に着いて初めてパレードやオープニングセレモニー、歓迎パーティ等について知らされる事になった。
 私たちの公演回数も3回と聞いていたが、実際は4回だった。宿舎も情報と違っていたり、今田人形座のバスが2度も故障したりとトラブルが続いたが、同行したいいだ人形劇フェスタ実行委員会の方の奔走と、通訳の女の子達の一生懸命の対応に、無事乗り越える事ができた。また今田人形座の方々は、芝居に対してとても真摯に一生懸命取り組んでいらして、私たちにとって教わるところも多く、お陰でとても楽しく公演を終えることができた。
 ここに関係各位皆様に、御礼申し上げたい。


 旅の日程が短く、他の劇団の公演を見ることができなかったが、パレードやオープニングセレモニー、そして野外での公演を少し見ることができ、台湾の人形にとても興味を覚えた。
 今回台湾以外からは9ヶ国11劇団が参加したそうだが、オープニングセレモニーで、ドイツやセルビア・モンテネグロ、シンガポールの3劇団が揃ってベリーダンスを取り上げていて奇妙な感じを覚えた。イラク問題の影響であろうか。僅か2〜3分ではなかなか真意は判らないだろうが、どれもただ腰を振っているだけのその動きからは、何かの主張を持っているとは思えなかった。

 夜、野外で見たのは、台湾で一番人気のあると言われる廖文和布袋戯団だった。
 人形の大きさは50cmぐらいしかないのに、1000人ほどの人を集めている。舞台は三面作り、舞台全面から花火が吹き上がる、立ち回りで花火を散らす、書割がロール式になっていて背景が移って行くようになっている、スターウォーズよろしくレーザーの剣は出てくる、ともかく最新の仕掛けをふんだんに使っていて、僅か10分ほど見ていたのだが、これでもか、これでもかと展開していく。こんな派手な人形劇見たことがなく、正直言って驚いた。
 そういえばパレードのとき、布袋と同じような大きさの人形の口や手から炎が吹き出しているのを見た。局長に「どのような仕掛けになっているのか」と尋ねたら、「企業秘密」と笑っておられたが、台湾の人形は火を使う伝統があるのであろうか。

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 そのパレードで台湾の糸あやつり人形を遣っているところを見ることができた。
 私はこの頃、私たちの人形は「南京あやつり」の流れを組んいるのではないかと思うようになっている。「南京あやつり」は18世紀半ばに廃れ、私たちのものとは関係ないように捉えられているが、「南京あやつり」の操作盤がおしゃもじ状だったと何かで読み、私たちの元になっていると思うようになったのだ。
 今回錦飛鳳傀儡戯劇団のを見たのだが、左右の手で操作板を持ち替えながら”遊び糸”を巧みに手繰り寄せ片手でまとめて持ち、残った糸を遣うその手の動きが私たちのと基本的に同じだと直感した。そこに私達のルーツを見た思いがした。

 もう少し時間があって台湾の人たちとゆっくり交流できたら、もっと新しい発見ができたかもしれないと、その点が残念であった。












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