2002年
海外公演レポート * |
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記・上條 充- 今回は日系人協会の講堂での公演や大道芸のほか、ベレンでは州立の芸術学校で簡単な糸あやつり人形をつくるワークショップを含めたレクチャー、サンタクルスでは地元の芸術家を集めてのレクチャーと交流会、リマでは大学でのレクチャーとペルーの代表的な人形劇場前での大道芸と交流会と、結構地元の方々と交流することができました。ワークショップは始めての経験でしたが、身近にあるものを使っての人形製作に、出来上がったときの参加者の顔は本当に嬉しそうでした。 ラパスは3700mもの高地にあって、行ったことのある人から高山病のひどさ、つらさを随分聞かされていましたので、着いた日は恐る恐る体を慣らすようにしていました。翌日も通し稽古をするなど調子を慎重に整えましたので、本番はいつもと変わりなく無事に済みました。ただ「黒髪」を遣っている時、息遣いの中で人形を遣うからでしょうか、一瞬肺の中がスコンと空っぽになった感じがしました。あれっと思う間もなくすぐに戻ったのですが、これも高地ゆえからでしょうか。。 そのラパスの街を皆で歩いている時、空気がとても乾燥していたので私はマスクをしました。ここではマスクをする習慣がなく、怪しいと思ったのでしょう。警察官がパスポートを見せろと言います。ところがラパスにはニセ警官が多く、パスポートを口実に物を盗られるとかいうことで用心してホテルに置いてきていました。通訳の方が強く抗議するといつの間にか数人の警官に囲まれてしまい、とにかく警察車両に乗ってホテルに戻り、確認した後は記念撮影をしたり、街まで送ってもらったりと和気あいあいとなったのですが。ちょっとした一幕物でした。 自主企画の場合、現地でお世話頂いても相当お金は入り用です。今回も国際交流基金から助成、メセナ、企業6社から協賛を頂きましたが、赤字になることは覚悟しておりました。そこに国際交流基金から派遣の話が来て、正直なところとても助かりました。 シカゴ、クリーブランド、グアナファト(メキシコ)、キト(エクアドル)、ポートオブスペイン(トリニダードトバゴ)、ヴィーニャデルマール、サンチアゴ(チリ)、ポゴタ(コロンビア)、28日間で20ステージ、6000人もの人に観てもらいました。現地の受入は大使館や領事館、宿泊はすべてホテル、会場は劇場が中心、しかも日程に余裕があって自主企画に比べるとずっと楽な旅でした。あるところで「あなた方のように、ひどいところばかり、あっ失礼、まわっている方ですと楽なんですよね」と言われてしまいました。 私達は終演後、出口に立ってお客さんを見送ることにしているのですが、「こんにちは」「ありがとう」「さよなら」とずいぶん日本語で声を掛けられました。キトで聞いた話ですが、エクアドルの人は日本に全然興味がなかったそうです。それが、ワールドカップがあって一気に興味が増したのだとか。 キトでの最終公演、第1部で私達が「人形の解説」を始めると遅れてきた人達が入ってきました。それがだんだんと入口から溢れるようになり解説どころではなくなって、舞台の上から会場整理をしなければなりませんでした。実は満席になったところで入口を締め切ったから、入れなかった人がドアを叩くなど大騒ぎになり、暴動になりそうだったとか。その数、200人。それで慌てて入口を開けたのですが、お客さんは通路を埋め尽くして舞台にまで上がり込んで、しかしすぐに静まり返りました。熱気の中、快く人形を遣ったのは言うまでもありません。 シカゴでは急遽、黒人の小学校で見せることになりました。持ち時間は20分しかありませんでしたが、子供達が人形の一挙手一投足にものすごく反応して面白かったです。パレスチナの子供達を思い出してしまいました。子供達の感性は世界中変わらないんだなと、改めて感じました。 各国文化状況が異なっていても共通しているのはスタッフの素晴らしさでした。 アメリカではユニオンが強すぎて思うような照明が全然作れませんでしたが、その外はどこも舞台を良く理解し、愛していて、飛び回るように協力してくれました。グアナファトとヴィーニャデルマールでは、人形が観づらいと言うとすぐに舞台を上げてくれました。またグアナファトでは主催者がスタッフに賃金を払わないからとも私達の公演2日目にストを起こし、スタッフが入れ替わるという状況になったのですが、スト中のスタッフは最後まで残って照明の当たりやきっかけをきっちり伝えてくれていました。 終演後「人形を間近で見たい」と、お客さんが舞台に上がってくることも結構ありました。中には人形劇関係者もいて、随分熱心な質問を受けました。コロンビアではそれが縁で人形劇場を見学しましたが、きれいで見易い素敵な劇場でした。コロンビアには100もの人形劇団が全国にあって、人形劇場もボゴタ市内だけで6つもあるそうです。ところがチリでは全国でも15ほど劇団しかなく、しかも高齢になっていて、後継者を育てる拠点をつくろうと一生懸命でした。そのサンチアゴの公演はヴィーニャデルマールの評判が広まって800人もの人が集まりました。 ボゴタには他の南米諸国と同じようにストリートチルドレンが多く、最終的に麻薬の世界に入ってしまうのだそうです。その流れを断とうと、ボゴタ市は子供達にジャグリングを教え、自分の力でお金を稼ぐことを覚えさせようとしています。街のあちこちの交差点では子供達が、赤信号になると横断歩道に飛び出してジャグリングを見せ、青になって走り出す車の間を縫うように小銭を集めていました。 お客さんとは一期一会だと考える私達は、それぞれの会場で条件の違う中、最良の舞台を作ろうとしてきました。そんな中で耳にしていたのが「日本から来る文化使節は接待慣れしていて、2日ほどちょこっと舞台をしたら、後は豪遊」とか「コネを使って来たけれど見せられたものではなく、困ってしまった」などという受入側の言葉でした。 ポートオブスペインの大使公邸ではレセプションがあり。30分ほど人形を遣ったのですが、見ていたJICAの方から「いつもはこういう時、恥ずかしくなってしまうので一番後ろで見る事にしているのだけど、今日は人形が見えなくてあなたの顔しか見えなかったけれど、誇らしく思ったよ」と言われました。最高の言葉と、有り難く頂戴しました。 2つの公演を通して余りにも色々な出会いや経験があって、今以って整理がつきません。 ただ折角できた縁です。出逢いを大切にしたいと思います。 この2つの公演に非常に多くの方々のご協力がありました。この場をお借りして、感謝申し上げます。 ■ 詳細レポート >>「江戸糸あやつり人形」南米公演 (9月9日〜10月2日) >> 国際交流基金派遣事業「大道芸デモンストレーション」(10月10日〜11月6日) |