パレスチナ公演 感想

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 wrote : 上條 充

 昨年の10月、衝突の激化から延期を決定した時は、正直言ってとても悔しい思いがした。そして今回は安全性を配慮しながら交渉したが、常に「中止」と背中合わせの状態だった。現地に入ってから少しでも危険を感じたら、そこで公演を中止してでも回避する覚悟だった。しかし着いてみると、ここが紛争当事国かと疑いたくなるほどイスラエルは落ち着いていて、パレスチナの民も穏やかに、私達の到着を心待ちに待ってくれていた。

 11泊11日、10都市で13公演そして3回のワークショップをこなし、予想をはるかに上回る2100人もの観客を動員しましたが、過密な日程が苦にならないほど充実した旅ができた。それは評判がよかったからだけではない。ワークショップ、公演後の交流そして民泊などを通してそこの人々と充分交流を持つことができたからだ。
 私達は子供にも大人にも見てほしいと思っていた。ところがどの公演も子供が中心である。どうやら人形劇は子供の為のものとの重いが強いようだ。そして後半になって大人が増えていったのは、嬉しい限りであった。
 子供達の反応は日本の子供達と全く同じだった。ユダヤ人のジャーナリストに聞かれそう答えるとその人も驚かれたが、人形や芝居に対する反応が変わらないのである。もしかしたら、子供というのは世界中皆な同じかもしれない。そんな思いを強く持った。
 ただ日本と違うところは、反応を言葉にして出すことだ。これは多分アラブ人もユダヤ人も、大人も子供も同じようだ。初め私は、私の人形がつまらなく飽きてしゃべりだしたのかと思った。慣れないうちは、戸惑う。慣れても350人や600人にもなるともう大変である。が、見ているのである。食い付くように、身を乗り出して。
 人形の踊りは楽しんでもらえるのだろうと、ある程度の確信は持っていた。しかし「酔いどれ」や「かみなり」にはどんな反応をするのか不安だった。ベドウィン・キャンプで初めて「酔いどれ」を遣った時、反応の声が大きくなるにつれもうダメかと思ってしまったが、他のメンバーには子供達の喜んでいる姿しか見えていなかった。他の所では江戸囃子に合わせて踊り出す子もいたそうだ。

「かみなり」は、渡航の延期によって、世界でもっとも難しいと言われるアラビア語の台詞をたっぷりと稽古することができた。少しでも芝居の面白さを理解してもらうため、芝居のポイントになるところをアラビア語に直したのである。日本語を初めて耳にした人がほとんどだったそうだ。その人たちに少なからず日本に興味をもってもらえたのではないかと思う。日本と言うと、自動車のメーカー名しか知らなかったのだから。

 私達のまわったところは、ほとんど劇場がなかった。西岸地区には三つしかない。しかし活動しているのはパレスチナ・ナショナル・シアター(PNT)のみで、ベツレヘムとラマッラーのそれは閉鎖されたままで、どこが管理しているのかすら解らない状態だった。三つある映画館も同様で、ラマッラーのひとつ以外は閉鎖されている。東エルサレムのそれは廃虚のようになっていた。
 17日夜、私達はPNT小ホールでの大人向けの芝居を見にいった。アラビア語、ヘブライ語が入り交じった芝居はとても私達に分かるものではなかったが、役者の実力はかなりもので、芝居も練り込まれたレベルの高いものだった。しかし観客はわずか2人。後日人形劇があったときは、20人だったそうである。その話を聴いて、改めて私達の観客動員数を考えている。どうしてこれだけの人を動員できたのだろうか。闘争の行き詰まりから環境に閉塞感を感じ、異文化からの刺激を求めたのだろうか。公演後何人かの大人は「伝統人形芝居」と説明した私の言葉から何も「伝統」を取り上げ、話し掛けてきた。パレスチナの民は伝統を重んずるからか。今以ってわからない。PNTの人形劇担当のアベドさんは、とても私達の人形に興味を持たれた。今度作ってみたいと言う。私は彼に協力し、人形の設計図や違いを伝えようと考えている。人形を遣うことはとても難しいことだが、もしかしたらパレスチナなりの糸あやつり人形が育つかもしれない。江戸の文化が形を変えてパレスチナに花開くなら、それはそれで素敵なことと思う。文化交流は帰国後も続くものと、私は考える。僅かでもできた人脈と、末永い交流が続けられればと願っている。

 18日ラマッラー公演後、そこの責任者でパレスチナ評議会議員・前農業大尽のアブダル・ジャワド・サラハさんと会談した。ラマッラー近郊でユダヤ人入植地と接するところでは、ストレスがすごいという。アラブの子供達が外で遊んでいるだけで銃撃されたそうだ。その人たちのために公演してくれないかと言う。残念ながら、私達に時間は残っていなかった。ガザ市は静かなので公演してほしいという人もいた。西岸地区で行けなかった所も多い。再び、なんとか機械を設けて訪れたいと思う。そして他の人にも是非行ってほしいと思う。とりわけ映画や音楽、美術など、民族性を尊重しながら私道できる方に行ってほしい。平和のため、政治や主義ではなく文化の果たせる役割がある。それを今考え始めなければならない。旅の最後に、そう思った。

 私達が行っていた11日間は何事もなく平穏だったが、再びテロや武力衝突が起こっている。少しでも早い平和の訪れを祈るばかりだ。

 













「江戸糸あやつり人形」

代表・人形遣い   上條 充
演 出    和田 喜夫
役 者     吉川 進
人形遣い 福田 久美子



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